コーヒーマシンは無事に動いているだろうか

まだ30代前半だった頃のこと。
よく、近所のコーヒー店に行っていた。
そこには、
すらりとしたショートヘアの店員さんと、
おでこがきれいで目の大きな店員さんがいた。
ある冬の寒い日の朝、
確か12月のことだったと思う。
その店へ行くと、
混んでいるはずの時間帯なのに、
客はほとんどいなかった。
すいていてよかった、と思って店に入り、
カウンターの前で注文をしようとしたら、
一方の店員さんが、
とても申し訳無さそうな顔をして言った。
「すみません、実は……、
今、コーヒーマシンが故障しておりまして、
紅茶類はあるのですが、
コーヒーはお出しできないんです、
申し訳ありません」
珍しいこともあるものだ、と思った。
「では、マシンが直った頃、また来ますね」
私はそう言って、その日は帰った。
3~4日してから、再びその店の前を通った。
ガラス張りの店なので、
お客さんが普通に入っているのが見えた。
コーヒーマシンは無事に直ったようだった。
すらりとしたショートヘアの店員さんも、
おでこがきれいで目の大きな店員さんも、
いつものように接客をしていた。
今はもう、
その店から1000キロ以上も離れた所に
引っ越してしまった。
あのコーヒー店は、まだあるのだろうか。
コーヒーマシンは無事に動いているだろうか。
ずいぶん昔の、こんな些細なことを、
なぜか今でも、ふんわりと思い出しつつ、
今年もまた12月を迎えた。






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