某ブランドの創業一族についての映画を鑑賞

映画を観た。ある有名ファッションブランドの創業一族の人間模様を描いた作品である。

冒頭で「これは事実をもとにした物語である」という意味の一文があったので、そのつもりで鑑賞した。

自分からこれを観たいと思っていたわけではなかったのだが、実際に観始めると、飽きさせない展開で、思っていたよりも面白かった。各場面で当時の流行歌が流れるなどして、ちょっと懐かしく感じたりもした。

人間模様を描くいわゆる群像劇では、登場人物のなかで誰が主人公なのか特定しにくいものもある。だが、今回の映画の場合は、一人の女性を中心に物語が組み立てられていた。

彼女は庶民の娘で、明るくて活発である。ひょんなことから彼女は一人の青年と親しくなる。その青年は、背が高くて、おとなしくて、知的なタイプだった。

やがてその青年は彼女を実家へ連れて行くのだが、そこで彼女は驚くことになる。青年の父親は大変な金持ちだったからだ。彼の一族は、あるファッションブランドを経営していたのである。

青年の父親は、息子が彼女と結婚することに大反対するが、彼らは結婚してしまう。二人は彼らだけで暮らしはじめ、青年はその静かな生活に満足していた。

ところが、やがて彼女の方が義理の父のビジネスと財産に興味を持つようになっていく。そして、親戚のあいだで駆け引きや嘘を駆使して、そのビジネスを自分たちで独占しようとしていく、というのが物語の大筋である。

いまの私の靴は、たぶんもう1000日は履いているはずだが、壊れない。

私はこのブランドの服やバッグは一つも持っていないが、もちろん名前はよく知っている。小さなバッグが何十万円もするブランドだ。だがこの服や靴やバッグや財布がデパートに並ぶその背後には、こういった複雑な人間模様があったとは知らなかった。

もちろん、これは映画だから、実際のその一族の歴史とはやや違うところとか、デフォルメして大げさに描かれていたりする部分はあるだろう。また逆に、何か重要な事実を省略したりもしているかもしれない。

映画では、主人公の女性の、お金とプライドに対する執着の凄まじさが描かれていた。確かに彼女には、家族の一員として、ある程度の財産を手に入れる権利はある。だが、そのために彼女が行う策略が容赦ないので、なかなかの悪女といった印象を受ける。醜悪さを徹底させることで、かえって哀れな女に見えるように意図していたのかもしれない。

だが、お金や名誉が欲しいというのは、ほとんどの人間に共通するものであるだろう。

多くの人は、彼女のような状況には置かれていないから、誰かを嵌めたり追い出したりはしない。だが、もし誰かを嵌めたり追い出したりすれば莫大な財産と名誉が手に入るとしたら、決してそれをしないと断言できるだろうか。

この映画を観た後、ふと、これとは全く関係のない別の昔の映画のことを思い出した。というのは、そちらの映画のタイトルにも、ある有名ブランドの名前が入っているからである。

タイトルにブランド名が入っている、というただそれだけのつながりでその昔の映画を思い出したのだが、そちらの映画のストーリーや雰囲気は、今日観たものとは全く違うタイプのものである。

その映画も、主人公は女性だ。主演女優はとてもチャーミングで、映画の冒頭では大きな黒いサングラスをかけた姿で登場する。テーマ曲の「ムーンリバー」が独特な雰囲気を与えている。

子供の頃、ホースで水をまくのがなぜか面白くて、やめられなかった。

こちらの映画は、一口に言うと、可愛らしくて自由奔放だが少々変わり者の女性をおしゃれに描いた映像作品、といった感じである。どんなストーリーかと問われると、説明するのに少し困るほど、ストーリーそのものはたいしたことない。

原作の小説は読んでいないが、その映画を観ていると、この登場人物はどうしてこういう生活をしているのかとか、なぜここであの人物はこういう反応をするのかとか、ちょっと腑に落ちない場面もないわけではない。舞台はニューヨークだが、日本人を小馬鹿にしたような演出さえある。

ところが、不思議と、映画全体としては非常に印象的な作品で、主人公の仕草や笑顔にも魅了されてしまうのである。

私は初めてこれを観たとき、「映画」というのは、必ずしも人間的真理や社会問題を表現していなくても、また少々不自然なストーリーであっても、それでも結構強く印象に残る作品になりうるものなのだな、と思った。

この映画のタイトルに含まれている宝飾品ブランド名は、ストーリーと直接的には関係がない。映画のなかでそのブランドの店で買い物をするシーンは出てくるが、別のブランドや架空のブランドで代替することも不可能ではないように思われる。

一方、今日新たに観た方の、主人公の女性が自社ブランドを必死に独り占めしようとする物語の映画は「事実をもとにした物語」なので、こちらはそのブランド名を別のもので代替することはできない。

そうした意味では、こちらの映画で扱われるブランドはあくまでもこれであらねばならない、という点で「個性的」であるはずだ。しかし、いわゆる玉の輿で結婚をして、お金にかかわる問題で人間関係が混乱し、誰かを傷つけたり傷つけられたりする、というストーリーは、わりとお決まりのパターンで、全体としては「よくある話」だとも言える。

そして、昔観た方の、一見したところストーリーが曖昧でタイトルのなかのブランド名もそれである必然性は薄いように思われるあちらの映画の方が、全体としては結果的に強い「個性」がある作品になっていると思ったのだった。

(終)

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